震度7の揺れを3相当へ! 世界初3次元免震システム搭載マンションの誕生

世界で初めて横揺れにも縦揺れにも対応する「3次元免震装置」搭載マンション「知粋館」を完成した株式会社構造計画研究所。開発・実用化された3次元免震システム(ハイパーエアサスペンション)は、震度7レベルの揺れを震度3〜4程度に相当に軽減することが可能だという。今回は、画期的な取り組みとなったマンション「知粋館」での「3次元免震システム」の概要を紹介する。

縦揺れの軽減を追求した産学連携チーム「阿佐ヶ谷プロジェクト」

今回ご紹介する株式会社構造計画研究所は、六本木ヒルズや上海環球金融中心といった超高層ビルの構造設計・監理を担当しており、創業以来50年以上にわたって地震に強い構造物の設計・対策・研究に関わってきた、いわば地震・地盤・耐震構造のエキスパートである。
3次元免震システムは、構造計画研究所、藤田隆史東京大学名誉教授、清水建設、カヤバシステムマシナリーの産学連携チーム「阿佐ヶ谷プロジェクト」によって開発された。そのプロジェクトリーダーである構造計画研究所の構造設計部部長である高橋治氏に、実際に「知粋館」をご案内いただきながらお話を伺った。

直下型の被害を最小限に食い止めることが責務と語る高橋氏

「3次元免震装置の開発に取り組んだきっかけは、直下型の被害が大きかった新潟県中越地震や阪神淡路大震災ですね。列車がレールから外れて倒れた映像をご覧になったことがあると思いますが、あれは、上下の揺れによって引き起こされたものです。僕は合気道の師範ですが、効果的な技は、相手を上下に持ち上げて足払いすることです。それと同様に構造物も、上下動する揺さぶりに対しては非常に弱い。直下型の縦揺れをいかに軽減して被害を防ぐかというのが、3次元免震構造のポイントです」

現在、建物を地震から守る方法としては、耐震・制震・免震がある。「耐震」は、躯体が強固な構造で揺れに耐える、1981年以降に制定された新耐震基準だ。加えて、「免震」は建物も一緒に揺れることで地震を免れ、「制震」は制御装置が揺れを吸収して地震を制する、といった特長がある。しかしこれらは、水平の揺れには対応できるものの、直下型地震で予想される上下の揺れには弱い。そこが従来の「2次元」の問題点だったが、3次元免震装置は、水平と上下、つまり、横揺れと縦揺れの両方を軽減するものだ。

建物を地震から守るには、さまざまな方法と特長がある

3次元免震システムは、従来の横揺れだけでなく、縦の揺れにも対応できるのが特長だ

「そもそも3次元免震装置は、原子力発電所の耐震強化のために、東大の藤田先生と各社ゼネコンとで研究開発を進められていました。我々もその研究開発グループに度々お話を伺ってきましたが、まず小規模な戸建てや集合住宅に対して3次元免震装置を導入して実績を積み重ねていこうということになりました。そこで、当社、藤田教授、清水建設、カヤバシステムマシナリーから集まった約10名で阿佐ヶ谷プロジェクトチームを結成し、3次元免震装置の実現化のために一歩一歩、研究開発を進めてきました。まず着手したのが、当社の技術の実験場でもある、この知粋館です」

阿佐ヶ谷プロジェクトは、構造計画研究所の先進的なビジネステーマと技術の実証の場であり、これからのビジネステーマの創造の場として、2005年にスタートした。2006年から3次元免震装置の共同開発に着手し、2009年11月に知粋館を着工、2011年2月に竣工した。その後すぐに3.11の東日本大震災が発生。実際に3次元免震装置が横揺れも縦揺れも低減できることがデータでも実証された。具体的にどんな構造の装置なのか、実際に見てみることにしよう。

「知粋館」の外観と、地下の免震層の構造

最先端装置を内部に搭載した超防災マンション

地上3階建て住居8戸の「知粋館」は、構造計画研究所の免震技術の成果であり、さらなる研究の場でもある

阿佐ヶ谷の住宅街に建つ「知粋館」は、一見したところお洒落な3階建てのデザイナーズマンションといった雰囲気である。しかしこの「知粋館」が、実は、最先端の3次元免震装置が導入された超防災マンションなのだ。

建物正面に「この建物は免震建築物です。国土交通大臣による認定を受けた世界初の3次元免震建築物です」というプレート表示

「知粋館は、当社らしい技術の成果を集めた住宅として3次元免震装置を取り入れるだけでなく、屋内環境のエネルギー測定や住宅に関する履歴情報を一元管理するなど、超長期優良住宅のモデルとしてさまざまなデータを取っています。1階正面のガラス越しに見えているのが、これらデータを蓄積するサーバーです。また住戸に住んでいるのは当社社員とその家族で、彼らは住みながらデータを提供するモニターでもあります。

「知粋館」の建物全体が3次元免震システム上に載っている

知粋館の構造

免震構造は、地震動を建物に伝えないために、まわりの地盤と建物が切り離されている。建物のまわりをぐるりと取り巻いている溝は、そのためのものだ。地下に設置されている3次元免震装置の上に、建物の柱が乗っかっているところを想像してもらうとイメージしやすいだろう。

地震発生時は、建物と地盤をつなぐこの溝部分が動くことで揺れを軽減する

横揺れ1/8、縦揺れ1/3を軽減する3次元免震装置システムの秘密

建物地下にある3次元免震システムを見てみよう。地下に向かう急な傾斜の階段は、構造と切り離された吊り梯子となっており、これもまた縦揺れに対応して地面から10センチほど離されている。地震発生時、階段も建物と一緒に揺れて動くことで、階段の損傷が防げるからだ。

地下構内の4隅と中央には、赤と青の色鮮やかな巨大な3次元免震装置が合計8基、建物の柱の下に据えられている。知粋館を支える要石ともいえるものだ。免震装置1基のコストは約1,000万円。理論上は、この装置で14階建てくらいまでの建築物を支えられるという。

免震装置の赤と青のカラーリングはガンダムカラーからきているという

横揺れを軽減する積層ゴムと、縦揺れを軽減する空気ばね

「装置の上に見える黒い部分が、金属板とゴムを何層にも重ね合わせた『積層ゴム』で、水平方向に動いて横揺れに対応します。赤い鋼梁の下にある黒いベローズゴムと青い補助タンクの組み合わせが『空気ばね』で、空気の弾性によって縦揺れを軽減します。『空気ばね』は、トレーラーなどに用いられているものと同じ構造で、蛇腹状になっていて上下に伸び縮みします。補助タンクの気圧はコンピュータで操作しており、気圧値は建物の規模によって異なります。3階建ての『知粋館』の規模で7気圧ですが、実験の結果、『積層ゴム』が横揺れを1/8、『空気ばね』が縦揺れを1/3に低減してくれることがデータ的に実証されました。“免震の研究なのにゴムの研究ばかりしている”と、社内でもよく言われたものですが(笑)、どちらにも使用されている頑強なゴムが、3次元免震装置の重要な鍵です」

4隅の免震装置をクロスしてつないでいるのがオイルダンパー

知粋館は、積層ゴムと空気バネで構成された3次元免震装置に柱が支えられていることで、横揺れにも縦揺れにも強い建物となっている。ただし、3次元免震装置の上にある柱が上下に自由に動くと、建物がヤジロベエのようにゆらゆらと回転振動する「ロッキング運動」という現象が発生する。ただし、これでは内部に住む人や構造に被害を及ぼす。その衝撃や振動を抑えるために、4隅の装置にオイルダンパーを設けている。オイルダンパーは、粘着性のオイルの特性によって衝撃を和らげてくれるというものだ。写真の、4隅の装置をたすき掛けにつなぐ黄色い配管部分に高粘着オイルが流れてロッキング運動を抑制する仕組みになっている。

知粋館の地下は、まさに壮大なる3次元免震構造システムの試験場といえる。

3次元免震装置を搭載した「知粋館」を動画で紹介

構造計画研究所による「知粋館」の動画紹介もぜひご覧いただきたい。


次回後編では、既存・新築マンションへの3次元免震システムの可能性やその未来像、さらにマンションの診断補強相談の重要性などについて、引き続き高橋氏にお話いただく。
迫る直下型の不安! 3次元免震装置の未来と耐震診断の重要性

株式会社構造計画研究所
株式会社構造計画研究所

阿佐ヶ谷プロジェクトを推進した構造計画研究所のサイト。創業1956年以来、日本を代表する総合エンジニアリング企業。

阿佐ヶ谷プロジェクト「知粋館」

国土交通省の「超長期住宅先導的モデル事業」として採択された「阿佐ヶ谷プロジェクト」のもとに竣工した、世界初の三次元免震を実用化した先進的集合住宅「知粋館」のスペシャルサイト。サイトではモニタリング結果報告やイベント告知、動画などが提供されている。
2012年日本建築学会賞 受賞。2011年度グッドデザイン賞 受賞。

※構造計画研究所および、構造計画研究所のロゴは、株式会社構造計画研究所の登録商標です。その他、記載されている会社名、製品名などの固有名詞は、各社の商標又は登録商標です。

2012/06/07

↑ page top